その頃の僕の家は「スナック香」をやっていた。
ここで働くことになった元フーテンのマサミチャンは明るさと優しさで、あっという間にお店の人気者になった。
彼は元GSだったそうだが、たぶんアル中になって辞めたんだと思う。
その頃もまだ手が時々震えていたが、音楽を心底愛してた。
開店前には、ジュークボックスのオーティスをかけて踊っていたし、お客さんの伴奏をギターでしながら歌っていた。

ある日、彼はぼくためにギターを買ってきてくれた。
質屋かどこかで手に入れたものでボロかったがちゃんと鳴っていた。
その日からマサミチャンの特訓が始まった。
まずは構え方、指の置き方、解放弦のドレミ。そこからいきなり曲になった。
曲は「駅馬車」ぼくはメロディー先生はコード。
すぐに弾けた。実はドレミは小学校の時に父に教えてもらったことがあったのだ。
でも先生は誤解した。すごいじゃないか! と、
それで次に習ったのがFコード。人差し指で1フレットを1弦から6弦まで制覇して、中指、薬指、小指、すべて使う初心者にはチョウ難しい代物であった。
ゆびをフレットに置いてみたけれど、まったく音にならなかった。
悔しい チョークヤシい! いくらやっても ダメ、、ダメ、、ダメ、、、、、
ついに腹が立って割り箸を輪ゴムで人差し指にくくりつけた。
音がでたヤッタ、、、しかしこのままでは身動きとれん!こまった
人差し指の感覚を忘れないようにそっと割り箸をはずし、弾いてみた。
おおっ、ちょっとだがなんとなくコードに聞こえる?いけるかもしれん!
そんな感じで弾ける様になったのだった。

地獄のFが弾ける様になると、そこにはすばらしいことが待っていた。
Fコードというのはすごく便利なコードで1フレットずらすとF#、2フレットだとG、3フレットだとG#というように色々なコードになれるし、中指を離すと
Fマイナー、小指を離すとFセブンというコードに変化する。
これを組み合わせると、歌本に載ってるほとんどのコードが弾けてしまうのだ。
これにより、加速度的にギターの面白さを知ることになったのだった。